大阪地方裁判所 昭和45年(タ)228号 判決 1971年4月27日
原告 甲龍一
右訴訟代理人弁護士 柴田耕次
被告 乙丙淳
主文
原告と被告を離婚する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
一、≪証拠省略≫を総合すると、原告は朝鮮慶尚北道迎日郡義昌面薬城洞三九二番地において出生し、昭和一八年(一九四三年)二月三〇日被告と婚姻し、被告の本籍である同所一九四番地の戸籍に妻として入籍したこと、右婚姻に際して、妻たる原告が夫たる被告の氏を称するものではないし、また夫たる被告が妻たる原告の氏を称するものでないことが認められ、他に右の認定を動かすに足る証拠はない。
ところで、人事訴訟手続法第一条によると、離婚の訴は、夫婦が夫の氏を称するときは夫、妻の氏を称するときは妻が普通裁判籍を有する地の地方裁判所の管轄に属する旨規定されているが、右のような称氏者がない場合にはこのような二つの裁判所のいずれが専属管轄を有するかを決定する規準がないので、一般には民事訴訟の場合と同じく、被告が普通裁判籍を有する地の地方裁判所が原則として管轄裁判所となると解し、ただ原告が悪意で遺棄された場合とか、被告が所在不明である場合、その他これに準ずる場合など特別の事情の存する場合に限り原告の普通裁判籍を有する地の地方裁判所が管轄裁判所であると解するのが相当である。そうだとすると、本件においては、後記認定のように、被告が原告を悪意を以て遺棄した場合に該当するから、原告の住所地を管轄する当裁判所が管轄権を有することとなる。
二、そこで本案について判断する。
≪証拠省略≫を総合すると、原告は、被告との婚姻の届出後、日本に居住していた被告と同棲するため、その頃、当時原告が居住していた入籍前の原告の本籍地から日本に渡航し、下関において被告の出向をうけ、被告が居住していた親戚の家(その場所は日本のどこか判然としない)に落付いたが、被告は二日ほどそこに居ただけで、突然そこに原告を置いたままその姿をくらまし、その後被告から原告に何の音信もなく、現在に至るまでその所在すら判明しないことが認められ他にこの認定を動かすに足る証拠はない。右の事実は民法第七七〇条第一項第二号の「配偶者から悪意で遺棄されたとき」に該当する。
ところで、冒頭に認定の事実からすると、原、被告はともに、現に韓国政府の支配する地域に本籍を有する韓国人であるところ、外国人間の離婚事件については、法例第一六条によると、離婚原因発生当時の夫である被告の本国法に準拠することとなる。そうして、前記認定の離婚原因の発生した昭和一八年当時は、在日の朝鮮人は日本国籍を保有し、日本の法律に服していたから、これに関する離婚については、共通法第二条により朝鮮民事令が適用される訳である。しかしながら、朝鮮の独立により被告の服していた右本国法は原則として韓国民法に引継がれ朝鮮人の本国法としては一貫性を失っていないので、国籍の変動により本国法が変更したものと考えるのは相当ではなく、したがって、結局本件の離婚に関する準拠法たる被告の本国法は朝鮮民事令ではなく韓国民法と解すべきである。このことは韓国民法附則第二条本文の規定が同民法の遡求適用を認めていることからも肯認できるところである。そうして韓国民法によると、前記認定の事実は同法第八四四条第二号に定める離婚原因たる配偶者より悪意を以て遺棄された場合に該当することは明らかであるから原告の本件離婚の請求は理由がある。
三、以上の次第であるから被告との離婚を求める原告の本訴請求は正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 中島孝信)